家づくりを考えるとき、「暖かくて快適な家にしたい」という思いは多くの方に共通しているのではないでしょうか。最近は、そんな理想を叶えながら環境にもやさしい住まいとして「ZEH(ゼッチ)」が注目されています。
ZEHとは、消費するエネルギーよりも自分の家でつくり出すエネルギーのほうが多い、または同じくらいになる住宅のこと。政府も2030年以降は新築住宅のスタンダードにしていく方針を示しており、これから家を建てるなら知っておきたいキーワードです。
この記事では、ZEHの基準やメリットをわかりやすく解説します。
ZEH(ゼッチ)とは?
ZEH(ゼッチ)とは、「Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略で、使うエネルギーと、家でつくるエネルギーの差がゼロまたはプラスになる住宅のことをいいます。
ここでいうエネルギーとは、冷暖房や給湯、換気、照明など、日常生活で使う一次エネルギーのこと。従来の住宅では、どうしても外部から多くの電気やガスを購入して補う必要がありました。ZEHは、建物の断熱性能を高めて冷暖房に使うエネルギーを減らし、さらに太陽光発電などでエネルギーを生み出すことで、家庭でのエネルギー収支を「ゼロ以下」に近づけていきます。
これによって、環境への負荷を減らすだけでなく、家計にもやさしい住まいが実現できるのです。
なぜいま
ZEHが注目されているのか
ZEHがこれほど注目されている背景には、日本が抱える大きな課題があります。日本はエネルギー資源の多くを海外からの輸入に頼っており、エネルギー自給率はわずか数%台にとどまっています。さらに、気候変動の影響が深刻化する中で、温室効果ガスの排出を減らすことは急務となっています。
こうした状況を受けて、政府は2020年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。つまり、2050年までに日本全体として二酸化炭素などの温室効果ガス排出を実質ゼロにするという大きな目標を掲げたのです。その実現に向けて、家庭部門での省エネ・創エネが欠かせないことから、ZEHは国の政策の中心に位置づけられています。
具体的には、2025年4月以降すべての新築住宅で省エネ基準への適合が義務化され、さらに2030年には「新築住宅の大半をZEH水準にする」ことが目指されています。つまり、ZEHは、これからの住宅のスタンダードとして位置づけられているのです。
ZEHと認められる3つの基準
① 高い断熱性能
(断熱等性能等級5以上)
ZEHの家は、断熱性能がとても高いことが求められます。これは、室内の暖かさや涼しさを外に逃がさず、外の暑さ・寒さも室内に入れにくい構造になっているということ。
具体的には「断熱等性能等級5以上」という基準があり、全国を8つの地域に分けて、それぞれに適した断熱レベルが設定されています。この基準をクリアして初めてZEHの土台に立てるのです。
② 省エネ設備で
エネルギー消費を20%以上カット
次に重要なのが、省エネ性能です。ZEHでは、冷暖房・給湯・換気・照明といった基本設備の年間消費エネルギーを従来の家に比べて20%以上削減することが求められます。
たとえば、消費電力の少ないLED照明や高効率のエアコン、給湯システムなどを導入すれば、従来よりも少ないエネルギーで快適に暮らすことができます。家庭内のエネルギーを見える化するHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)の活用も、無駄を減らすポイントです。
③ 創エネ設備の導入
(太陽光発電など)
ZEHでは、太陽光発電などの設備で、自分の家でエネルギーをつくることが義務づけられています(ZEH Orientedを除く)。「高断熱+省エネ」でまず消費エネルギーを減らし、そこに「創エネ」を加えることで、最終的に使った分以上のエネルギーをつくり出す=100%以上の削減状態を達成することが必要です。
発電した電力は家庭で使用し、余れば電力会社に売ることもできます。災害時の非常電力として使える安心感も大きな魅力です。
ZEHのメリット
夏は涼しく、冬は暖かい
ZEHの大きな魅力のひとつは、冬でも夏でも快適に暮らせることです。断熱性能を高めた家は、外気の影響を受けにくく、室内の温度を一定に保ちやすくなります。
冬の寒さが厳しい日でも家の中の暖かさが逃げにくく、夏の暑い日でも冷房が効きやすいので、少ないエネルギーで快適さを保てます。また、部屋ごとの温度差が小さくなるため、リビングから廊下、脱衣所などへ移動しても急な寒暖差を感じにくくなります。これは、特に高齢者に多いヒートショックのリスクを減らす効果も期待できる点です。
光熱費がぐっと抑えられる経済性
ZEHに住むことで期待できるもう一つの大きなメリットは、光熱費の削減です。
断熱性能を高めて冷暖房の効率を上げることに加え、省エネ性能の高い設備を導入することで、従来の住宅に比べて使用するエネルギー量を大幅に減らせます。そのうえで太陽光発電を設置すれば、自宅でつくった電気を日常生活に使えるため、電力会社から買う電気の量を減らせるのです。
さらに、発電して余った電力は蓄電池に貯めておくか、電力会社に売電することも可能。電気代が高騰している今、ZEHは家計にとっても強い味方になります。
どれぐらい光熱費を抑えられる?

(https://jutaku-shoene2025.mlit.go.jp/shouene/)
実際に断熱性能の違いで、光熱費はどれくらい変わるのでしょうか。
住宅生産団体連合会のシミュレーションでは、札幌市のような寒冷地に建てた場合、断熱性能の低い一般的な住宅では年間およそ39万円の光熱費がかかるとされています。
これに対して、一般的な省エネ住宅の場合は年間33.3万円にまで削減可能。さらに、ZEH基準相当の省エネ性能を持つ高断熱住宅では、年間の光熱費を約20.8万円にまで抑えられると試算されています。
つまり、ZEH基準をクリアした断熱性能の高い家と、断熱性能の低い住宅では、1年間の光熱費に約18.5万円もの差が出るということ。30年間では550万円以上の差になり、長く暮らすほどその違いが大きくなることがわかります。
参照元:国土交通省・経済産業省・環境省 住宅省エネ2025キャンペーン
(https://jutaku-shoene2025.mlit.go.jp/shouene/)
停電時にも安心、災害に強い家
日本は地震や台風などの自然災害が多く、停電への備えは欠かせません。ZEHでは、太陽光発電に加えて蓄電池を設置することで、災害時にも自宅で電力をまかなえる安心感があります。
昼間に発電した電気を蓄電池に貯めておけば、停電しても冷蔵庫や照明、スマートフォンの充電など、生活に必要な電気を確保できます。給湯器のタンクに水を貯めておくことで、断水時に生活用水として利用できる設備を備えるケースもあります。
「災害に強い家」という観点からも、ZEHは大きな価値を持っています。普段は光熱費を抑え、もしもの時には非常用電源として役立つ──。そんな二重の安心を手に入れられるのがZEHなのです。
健康面でも安心できる住まい
断熱性能が高い住宅は、部屋ごとの温度差を小さく保ちやすいのが特徴です。冬場に多いのが、暖かいリビングから寒い廊下や脱衣所へ移動した際に起こるヒートショック。血圧や心臓に大きな負担をかけ、重い健康被害につながることもあります。ZEHならこうした急激な温度差をやわらげられるため、特に高齢の方にとって安心感があります。
さらに、気密性の高さから結露が発生しにくく、カビやダニの繁殖を抑えやすいのもメリットです。アレルギーや呼吸器系の疾患リスクを減らし、家族が健康的に暮らせる環境を整えることができます。
遮音性が高く、交通量の多い立地でも快適
ZEHで採用される高性能な断熱材や複層ガラスの窓は、熱を逃がさないだけでなく、音を遮る効果も発揮します。外の騒音が伝わりにくくなるため、交通量の多い道路沿いに建てても、室内は落ち着いた静けさを保ちやすくなります。
また、遮音性が高いことで、家の中から出る生活音が外へ漏れにくいのもポイント。楽器の練習や子どもの声なども気兼ねなく過ごせます。
ZEHのデメリット
初期費用は高め。でも補助金や優遇制度でカバーできる
ZEHを建てる際に多くの人が気にするのが、やはり初期費用です。
高性能な断熱材や複層ガラスの窓、効率の良い空調・給湯設備に加えて、太陽光発電や蓄電池を導入する必要があるため、一般的な住宅よりも建築コストが高くなる傾向があります。
ただし、こうした負担を軽減できる制度も整っています。国や自治体はZEHの普及を促進するために補助金を設けており、数十万円規模の支援を受けられる場合もあります。また、住宅ローン減税や「フラット35」の金利優遇など、家計の負担を和らげる制度も活用可能です。
さらに、ZEHは光熱費の削減効果が高く、数年〜十数年のあいだに初期費用を回収できるといわれています。導入時の費用だけでなく、将来的な経済効果も踏まえて検討することが大切です。
発電量は天候や立地によって変わる
ZEHの大きな特徴である太陽光発電には、天候や立地条件に左右されやすいという弱点があります。晴天が続く時期は十分な電力をまかなえますが、曇りや雨の日が多い季節、また日照時間が短い冬場には発電量が減ってしまうこともあります。
住宅の立地によっても発電効率は変わります。たとえば、周囲に高い建物があって日当たりが悪い場合や、屋根の形や向きが太陽光発電に適していない場合は、想定よりも発電量が少なくなるケースも…。
発電量の変動は、光熱費の削減効果や売電収入にも影響します。ZEHを検討するときは、立地や日照環境を事前にしっかり確認し、必要に応じて蓄電池や高効率設備を組み合わせて、安定したエネルギー利用を目指すことが大切です。
デザインや間取りの自由度が制限されることも
ZEHの基準を満たすためには、高断熱の建材や創エネ設備を取り入れる必要があります。そのため、一般的な住宅に比べて設計の自由度に制約が出ることがあります。
たとえば、太陽光パネルを効率よく設置するには、屋根の形状や角度をある程度限定する必要があり、デザインの選択肢が狭まることも。また、断熱性能を高めるために窓の大きさや配置が制限され、「開放感のある大きな窓をつけたい」といった要望が難しくなるケースもあります。
さらに、省エネ機器や蓄電池などの設置には、それらを置くためのスペースを確保する必要があります。理想のデザインや間取りを優先したい場合は、ZEH仕様とのバランスをどう取るかを慎重に考えることが大切です。
補助金や優遇制度を活用して初期費用の負担を軽く!
ZEHは、一般的な住宅よりも初期費用が高くなる傾向があります。しかし、国や自治体ではZEHの普及を後押しするために、補助金制度や住宅ローン減税、「フラット35」の金利優遇といった支援策を用意しています。これらを上手に活用すれば、初期の負担をぐっと抑えることも可能です。
ここでは、主な制度の内容とそのポイントを見ていきましょう。
住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)
住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)とは、年末時点の住宅ローン残高の0.7%が、最大13年間にわたり所得税などから控除される制度です。
2024年度以降は、省エネ性能が要件となり、住宅の性能によって控除の上限額が次のように変わります。
| 認定長期優良住宅・ 認定低炭素住宅 |
控除限度額(最大):4,500万〜5,000万円 控除期間:13年間 |
|---|---|
| ZEH水準省エネ住宅 | 控除限度額(最大):3,500万〜4,500万円 控除期間:13年間 |
| 省エネ基準適合住宅 | 控除限度額(最大):3,000万〜4,000万円 控除期間:13年間 |
| その他の住宅(非該当) | 控除限度額(最大):控除なし 控除期間:対象外 |
たとえば、4,000万円のZEH水準住宅を建てた場合、初年度は最大28万円(4,000万円×0.7%)の控除を受けられます。
ただし、控除額は年ごとのローン残高に応じて徐々に減少する点には注意しておきましょう。
※参照元:優遇制度で建てたい人を応援!|経済的にオトクに!|家選びの基準変わります - 国土交通省(https://www.mlit.go.jp/shoene-jutaku/economic-benefits/subsidy/index.html)
フラット35・フラット35S
「フラット35」は、住宅金融支援機構が提供する全期間固定金利型の住宅ローンです。そのなかでも、省エネ性などに優れた住宅を対象とする「フラット35S」では、一定期間、金利の引き下げが受けられます。
ZEH水準の住宅は「フラット35S(ZEH)」に該当し、当初5年間、最大で年0.75%の金利引き下げが適用されます。条件ごとの内容は次のとおりです。
| 一次エネ等級6 または 断熱等級5以上 |
金利引下げ幅:▲ 0.25% 引下げ期間:当初5年間 |
|---|---|
| 一次エネ等級6 かつ 断熱等級5 |
金利引下げ幅:▲ 0.50% 引下げ期間:当初5年間 |
| ZEH住宅 | 金利引下げ幅:▲ 0.75% 引下げ期間:当初5年間 |
※参照元:優遇制度で建てたい人を応援!|経済的にオトクに!|家選びの基準変わります - 国土交通省(https://www.mlit.go.jp/shoene-jutaku/economic-benefits/subsidy/index.html)
どれくらい負担が減る?実際の試算をチェック
では実際に、ZEH水準の省エネ住宅を建てた場合、一般的な住宅と比べてどのくらいお得になるのでしょうか。
国土交通省の試算によると、たとえば借入額7,500万円・返済期間35年・金利1.5%(全期間固定)の住宅ローンを組んだ場合、住宅ローン減税とフラット35Sの金利引き下げを併用することで、一般住宅より最大で約460万円の負担軽減が見込めるとされています。
具体的には次のとおりです。

(https://www.mlit.go.jp/shoene-jutaku/economic-benefits/subsidy/index.html)
- 住宅ローン減税:ZEH水準住宅と一般住宅を比較すると、最大182万円も多く控除を受けられる試算に!
- フラット35S:金利引き下げにより、「フラット35S(ZEH)」と「フラット35」を比較すると、総返済額が約280万円ダウン!
この試算は「借入金額7,500万円・金利1.5%・35年返済」の例ですが、借入額が大きいほど差額はさらに広がります。つまり、ZEH水準の高断熱住宅は建築費がやや高くても、長期的に見ればトータルで損をしない選択といえるのです。
※参照元:優遇制度で建てたい人を応援!|経済的にオトクに!|家選びの基準変わります - 国土交通省(https://www.mlit.go.jp/shoene-jutaku/economic-benefits/subsidy/index.html)
住まい手のリアルな意識は?
ZEHの認知度と「取り入れたい理由」
ZEHは国の方針としても重要視されている存在ですが、実際に家づくりを考える人たちはどれくらい関心を持っているのでしょうか。ここでは、株式会社NEXERと鈴木環境建設株式会社が全国の男女328名を対象に実施した調査結果をもとに、住まい手のリアルな声ご紹介します。
※参照元:【注文住宅建てるなら?】77.4%が、注文住宅を建てるならZEH対応にしたいと「思う」 | 株式会社NEXERのプレスリリース(PR TIMES)(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001794.000044800.html)
※本調査は株式会社NEXERと鈴木環境建設株式会社(https://suzuki-kankyo.co.jp/)による共同調査です。
ZEHを「知っている」と答えた人は4割弱。
うち内容まで理解しているのはわずか8.2%
まず、ZEHについてどの程度知っているかを尋ねたところ、「内容までしっかり理解している」人は8.2%。
「概要は知っているが詳しくは分からない」が12.2%、「言葉だけは聞いたことがある」が19.2%となり、約6割(60.4%)が“まったく知らなかった” と答えています。
ZEHは、省エネ性能と創エネ設備を組み合わせた次世代型の住宅であり、国としても2030年以降の標準仕様として普及を進めています。しかし、こうした政策の動きとは裏腹に、一般の認知度はまだ十分とはいえません。
つまり、家づくりを検討する段階で正しい情報に触れていないケースが多く、「知らないから選べない」という状況が起きていると考えられます。このギャップを埋めることが、快適で省エネな住まいづくりにとって大切なポイントだといえるでしょう。
ZEHを取り入れたい人は77.4%。
多くの人が“理解したら前向き”に
ZEHを知らなかった人にも内容を説明したうえで「注文住宅を建てるならZEH対応にしたいと思いますか?」と質問すると、「とても思う」32.9%、「やや思う」44.5%と、あわせて77.4%が「ZEH対応にしたい」と回答しました。
注目すべきは、もともとZEHを知らなかった人であっても、内容を理解すると前向きになる人が多いという点です。「とても思う」「やや思う」と回答した人の理由としては、
- 光熱費を抑えたいから
- ZEHにすると補助金がもらえるから
- 環境に配慮した暮らしがしたい
- エネルギーを自分で賄えるならそのほうが良い思う
- ネガティブな要素がない
などがあり、光熱費の高騰が続く中で、「エネルギーを自分の家でまかなえること」「光熱費を抑えられること」への関心が高まっている様子がうかがえます。また、「地球環境に配慮できる」といった理由も目立ちました。
一方で「費用が高そう」「よく分からない」と不安の声も
一方で、ZEH対応したいと「まったく思わない(7.0%)」「あまり思わない(15.5%)」と答えた方は、「よくわからないから」「初期費用が高くなりそう」「お金が余計にかかりそう」「費用対効果があうのか疑問」など、コスト面や情報不足への不安を挙げていました。
しかし、実際には補助金制度や金利優遇を活用することで負担を抑えられるケースも多く、ZEHの仕組みを正しく理解できれば選択肢として前向きに考えられる人がより増えるかもしれません。ZEHをより広めていくためには、制度の内容や金銭的メリットを丁寧に伝えていくことが重要だといえるでしょう。
まとめ
ZEHは、「断熱」「省エネ」「創エネ」を組み合わせて、家庭で使うエネルギーを自らまかなうことを目指した住まいです。快適で健康的に過ごせるだけでなく、光熱費の削減や災害への備え、資産価値の向上など、暮らしにさまざまなメリットをもたらします。
一方で、設備導入にかかる初期費用や設計上の制約といった課題もありますが、国や自治体の補助金制度や住宅ローン減税、金利優遇策を上手に活用すれば、コスト面の負担をぐっと抑えることができます。
エネルギーの使い方を見直しながら、より快適で安心な暮らしを実現できるZEH。これからの住まいづくりを考えるうえで、長く満足できる選択肢のひとつといえるでしょう。

