近年は「ZEH(ゼッチ)」という言葉を目にする機会も増え、省エネや環境に配慮した住まいとして注目されています。一方で、冬の寒さが厳しく、積雪も多い北海道では、「ZEHの実現は可能なのか」「太陽光発電が難しいと、ZEHの認定は受けられないのでは」と疑問を感じる方も少なくありません。
この記事では、北海道でZEHを考えるときに知っておきたいことを紹介します。
そもそもZEHとは
ZEH(ゼッチ)は、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略称で、住宅で使うエネルギーと、つくるエネルギーの収支を、年間でおおむねゼロに近づけることを目指した住まいです。住宅の性能を高めることでエネルギー消費を抑え、太陽光発電などの再生可能エネルギーを組み合わせることで、環境への負荷を減らしながら快適な暮らしを実現する考え方として、全国的に広がってきました。
ZEHは、主に次の3つの要素で構成されています。
ひとつ目が「断熱」です。外壁や屋根、窓などの断熱性能を高めることで、外気の影響を受けにくくなり、冷暖房に頼りすぎなくても室内の温度を保ちやすくなります。
ふたつ目が「省エネ」。高効率な暖房設備や給湯器、照明などを採用し、同じ快適さでも使うエネルギー量を抑えていきます。
そして最後が「創エネ」。太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用し、住宅で使うエネルギーを自らつくるという考え方です。
この3つを組み合わせることで、年間のエネルギー消費量を抑え、ZEHを目指します。
北海道のZEHは「創エネ」より「断熱」「省エネ」が主役
ZEHというと、「太陽光発電でエネルギーをつくる家」という印象を持たれることが少なくありません。もちろん創エネはZEHの大切な要素のひとつですが、北海道でZEHを考える場合、特に重視したいのが「断熱」と「省エネ」の部分です。
北海道の住まいで最も多くのエネルギーを使うのは、言うまでもなく冬の暖房です。暖房を止めればすぐに室温が下がってしまう環境では、どれだけエネルギーをつくっても快適さを維持するのは難しく、光熱費もかさみやすくなります。
一方で、断熱性の高い住宅では、室内の温度が安定しやすく、少ない暖房でも暖かさを保ちやすくなります。さらに、省エネ性能の高い設備を組み合わせることで、暖房に使うエネルギーそのものを抑えることができます。
そのため、北海道のZEHではまず「いかに熱を外に逃がさないか」「少ない暖房で、家全体を安定して暖められるか」という点が重要になります。
また、北海道では積雪や日照条件の影響で、太陽光発電の発電量が安定しない地域も少なくありません。こうした地域特性を考えると、「まず断熱でエネルギーを使わない家をつくる」という考え方は、北海道の家づくりにおいて現実的で理にかなったものと言えるでしょう。
ZEHの種類
ZEHには3つの種類が用意されています。
ZEH(ゼッチ)
まず「ZEH」は、断熱性能や省エネ性能を高めたうえで、太陽光発電などの創エネ設備を導入し、年間の一次エネルギー消費量を実質ゼロにすることを目指す住宅です。ZEHの中では基本となる考え方で、省エネと創エネの両立が前提になります。
ただし北海道では、屋根に雪が積もる期間が長く、日照条件も地域によって大きく異なります。そのため、太陽光発電を設置しても発電量が安定せず、創エネによって年間のエネルギー収支をゼロにすることが難しいケースも少なくありません。
このような背景から、北海道では「ZEH」の基準をそのまま満たすことが、現実的は言えないことが多いです。
Nearly ZEH(ニアリー ゼッチ)
Nearly ZEHは、断熱性能や省エネ性能の基準はZEHとほぼ同じですが、創エネによる削減率の基準がやや緩やかに設定されています。そのため、日照条件や敷地条件などの影響で、創エネ量がZEHの基準に届かない場合でも、認定を受けることが可能です。
寒冷地や日射量の少ない地域を想定した区分ではありますが、一定の創エネ量が求められる点は変わりません。そのため、積雪の影響を受けやすい北海道の多雪地域では、実現のハードルが高いケースが多いです。
ZEH Oriented(ゼッチ オリエンテッド)
北海道でZEHを検討する際に、現実的な選択肢として挙げられることが多いのが「ZEH Oriented(ゼッチ・オリエンテッド)」です。
ZEH Orientedは、高い断熱性能と省エネ性能を備えていることを前提に、太陽光発電などの創エネ設備を必須としないZEHの考え方です。都市部の狭小地や多雪地域など、屋根条件や積雪の影響で太陽光発電の導入が難しい住宅を対象としています。
ZEH Orientedとして認定されるためには、断熱性能や一次エネルギー消費量の削減といった基本的な省エネ基準を満たしたうえで、建築地が一定の条件に該当している必要があります。具体的には、北側斜線制限のある都市部の狭小地や、建築基準法で定められた垂直積雪量が100cm以上となる多雪地域などが対象となります。
北海道では「ZEH Oriented」が現実的
北海道の冬は長く、寒さが厳しいだけでなく、地域によっては積雪量も多くなります。屋根に雪が積もることで太陽光パネルが覆われてしまい、発電量が安定しないケースも少なくありません。また、落雪やメンテナンスの問題から、そもそも太陽光発電の設置を慎重に考えたいという方も多いでしょう。
こうした事情を踏まえ、「創エネ設備の設置が難しい地域でも、高性能な住まいを正当に評価するため」に用意されたのが、ZEH Orientedという枠組みです。
ZEH Orientedの認定を受けた住宅は、高い断熱性能と省エネ性能を備えていることが前提となるため、室内の温度が安定しやすく、北海道の厳しい冬でも快適に暮らしやすいというメリットがあります。暖房に使うエネルギーを抑えやすく、結果として光熱費の負担軽減につながる点も魅力のひとつです。
また、ZEHを目指した住宅として評価されることで、補助金制度の対象となる場合があるなど、制度面でのメリットが得られる可能性もあります。
北海道でもZEH Orientedが適用されないケースもある
ZEH Orientedが認められる条件のひとつに、「多雪地域」であることが挙げられます。具体的には、垂直積雪量が100cm以上と定められている地域が対象となります。
北海道は雪の多いイメージがありますが、実際には垂直積雪量が100cm以上となる地域と、そうでない地域が混在しています。計画地がこの基準に該当しない場合は、ZEH Orientedではなく、「ZEH」や「Nearly ZEH」の基準を満たす必要があります。
そのため、「北海道だからZEH Orientedで問題ないだろう」と思い込まず、建築予定地がどの区分に当てはまるのかを、早い段階で確認しておくことが大切です。垂直積雪量については、北海道の公式情報などで確認することができます。
まとめ
ZEHは、単にエネルギーを「つくる家」ではなく、使うエネルギーを抑えながら、快適な暮らしを実現するための考え方です。
特に北海道のように冬の寒さが厳しく、積雪の影響を受けやすい地域では、太陽光発電よりもまず、断熱性能と省エネ性能をしっかり高めることが重要になります。
その点で、創エネ設備を必須としないZEH Orientedは、北海道の気候条件に合った現実的な選択肢のひとつと言えるでしょう。ただし、ZEH Orientedが適用されるかどうかは地域条件によって異なるため、計画地の基準を早めに確認しておくことも大切です。

